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SunSugarSonBlog
イタチノヘ 02
その印象にひどく揺さ振られながら、
私は日課となっている処方箋をコップの水で飲み干す。
コンプレクソン。
複雑な情報刺激や状況に対応するストレスを軽減するための
政府認可薬だが、副作用として惰性的になる傾向がある。
実際は複雑なものを、単純化して見せてしまうからだ。
とは言っても、これがなければ
仕事ができない。
私の胃は薄いオブラートに包まれた
オレンジ色の液体を瞬時に吸収し始め、
もやもやとした夢の余韻は
科学の力で次第に消え去ってゆく。
そんなことをぼんやり感じながら
私は身支度を整える。
私の仕事はフレックス制ではあるが
必要とされる身だしなみの基準は高い。
熱いお湯と石鹸で髭を剃る。
こういう習慣は、ブロッコに住むようになったからといって、
そうそう変えられるものではない。
柔らかい香りのするタオルで顔を拭くと、
丁寧に折りたたまれた麻布の服に袖を通し、
防塵のマントを羽織って鏡の前に立つ。
背筋を伸ばし、自分の姿に威厳を探す。
廊下に出て、エレベーターを待つ。
隣人の部屋で、時計のベルが響く。
彼は時間を失くした。
私の父と同じくらいの歳だろう。
生活保護を受けてはいるが、
ひっきりなしに鳴るベルの音なしでは
どんな予定も組み立てる事はできない。
そうして支給されるジグソーパズルを
ひたすら組み立てている。
エレベーターのドアが開く。
エアカーテンを抜けて
ブロッコのエントランスを出ると、
白い歩道に烈しく日光が降り注いでいて
軽いめまいを覚える。
磁力レーンに乗って流れる人の列に加わり、
立ち並ぶ巨大ブロッコリーの林を抜けていく。
ドームの中に暮らす人々にとっての
豊かさ、それにまつわる自尊心の基準となるのが
このブロッコに部屋を持つことだ。
ブロッコに部屋があるという事は、
ドーム全体を動かしている経済活動の中で
一定の基準を超えて労働し
払うべき税金を納めているという事の証であり、
それはいわゆる市民、クリーンを自称するためには
欠くべからざる最低条件なのだ。
追い越しレーンを大荷物で急いでいた男が
すれ違いざま別の男の肩にでもぶつかったのか、
背中に激しい罵声を浴びせられている。
そういうシーンで舌打ちを聞く事は毎日のようにあるが、
ああやって大声で怒鳴り散らす人は少々珍しい。
感情がまだ活発に活動しているのか、
サプリメントのとり過ぎか、そのどちらかだろう。
いずれにせよ、どうでもいい事だ。
私には、関係の無いことだから。
私はイマイチ方面へ入るレーンに移る。
イマイチは川沿いに形成されたスラムで、
住環境としては劣悪だが、
貨幣と物々交換、その両方で成り立つ
巨大迷路のような市場があり、
クリーンのマーケットには出回らない類の、
珍品、逸品、砂漠の向こうから
どういうわけだか紛れ込んだ
生鮮食品なんかが手に入る。
そうした掘り出し物を求めて、
このスラムにはクリーンの人々もやってくる。
たいていはコソコソとしながら。
アンウォッシュから物を買う姿を
クリーンの誰かに見られはしないかという、
不安が彼らをそうさせるのだが、
そんな彼らもアンウォッシュの視線に対しては
まるで無敵のように悠然としているのである。
私がこの市場で買い求める品、それは
こうした未熟で好奇心旺盛なクリーン達だ。
私は日課となっている処方箋をコップの水で飲み干す。
コンプレクソン。
複雑な情報刺激や状況に対応するストレスを軽減するための
政府認可薬だが、副作用として惰性的になる傾向がある。
実際は複雑なものを、単純化して見せてしまうからだ。
とは言っても、これがなければ
仕事ができない。
私の胃は薄いオブラートに包まれた
オレンジ色の液体を瞬時に吸収し始め、
もやもやとした夢の余韻は
科学の力で次第に消え去ってゆく。
そんなことをぼんやり感じながら
私は身支度を整える。
私の仕事はフレックス制ではあるが
必要とされる身だしなみの基準は高い。
熱いお湯と石鹸で髭を剃る。
こういう習慣は、ブロッコに住むようになったからといって、
そうそう変えられるものではない。
柔らかい香りのするタオルで顔を拭くと、
丁寧に折りたたまれた麻布の服に袖を通し、
防塵のマントを羽織って鏡の前に立つ。
背筋を伸ばし、自分の姿に威厳を探す。
廊下に出て、エレベーターを待つ。
隣人の部屋で、時計のベルが響く。
彼は時間を失くした。
私の父と同じくらいの歳だろう。
生活保護を受けてはいるが、
ひっきりなしに鳴るベルの音なしでは
どんな予定も組み立てる事はできない。
そうして支給されるジグソーパズルを
ひたすら組み立てている。
エレベーターのドアが開く。
エアカーテンを抜けて
ブロッコのエントランスを出ると、
白い歩道に烈しく日光が降り注いでいて
軽いめまいを覚える。
磁力レーンに乗って流れる人の列に加わり、
立ち並ぶ巨大ブロッコリーの林を抜けていく。
ドームの中に暮らす人々にとっての
豊かさ、それにまつわる自尊心の基準となるのが
このブロッコに部屋を持つことだ。
ブロッコに部屋があるという事は、
ドーム全体を動かしている経済活動の中で
一定の基準を超えて労働し
払うべき税金を納めているという事の証であり、
それはいわゆる市民、クリーンを自称するためには
欠くべからざる最低条件なのだ。
追い越しレーンを大荷物で急いでいた男が
すれ違いざま別の男の肩にでもぶつかったのか、
背中に激しい罵声を浴びせられている。
そういうシーンで舌打ちを聞く事は毎日のようにあるが、
ああやって大声で怒鳴り散らす人は少々珍しい。
感情がまだ活発に活動しているのか、
サプリメントのとり過ぎか、そのどちらかだろう。
いずれにせよ、どうでもいい事だ。
私には、関係の無いことだから。
私はイマイチ方面へ入るレーンに移る。
イマイチは川沿いに形成されたスラムで、
住環境としては劣悪だが、
貨幣と物々交換、その両方で成り立つ
巨大迷路のような市場があり、
クリーンのマーケットには出回らない類の、
珍品、逸品、砂漠の向こうから
どういうわけだか紛れ込んだ
生鮮食品なんかが手に入る。
そうした掘り出し物を求めて、
このスラムにはクリーンの人々もやってくる。
たいていはコソコソとしながら。
アンウォッシュから物を買う姿を
クリーンの誰かに見られはしないかという、
不安が彼らをそうさせるのだが、
そんな彼らもアンウォッシュの視線に対しては
まるで無敵のように悠然としているのである。
私がこの市場で買い求める品、それは
こうした未熟で好奇心旺盛なクリーン達だ。
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