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SunSugarSonBlog Page 7
イタチノヘ 07
不自然なほど長い廊下を歩いている。
心臓は自制を失い、激しく動悸している。
天井が、私たちの歩みに合わせ薄暗く緑に光る。
おそらく、振動刺激を感知して発光するプランクトンが
塗り込められているのだろう。
前を歩く警官の腰から強い磁力が発せられているのだろうか、
私の手首に掛けられた手錠は彼から1m以上離れる事ができない。
両側の壁は、今にも私たちに向かって崩れ落ちてきそうな、
異様な圧迫感を伴っている。
彼方の暗がりから、別の警官がこちらに向かって歩いてくる。
彼の周囲だけが歩みに合わせ緑に光るので、スポットライトが
彼の動きをフォローしているようにも見える。
私の前をゆく警官が先に敬礼をする。
おそらく彼の上司なのだろう。
しゃくれた顎と屈強そうな体の上司は、敬礼を返してから
私の顔を一瞥する。
彼らの威厳を保つための帽子の下から、
恐ろしく冷たい視線が私の体の芯を突き刺す。
こうした明かりや廊下の長さといったものは、
脱出の困難さ、自分の置かれた状況の過酷さを
強調するための演出なのだろうか。
私はまんまとそれに乗せられ、
絶望的な気分になってきていた。
早くコンプレクソンを飲みたい。
だがその願いは聞き入れられないだろう。
右派の誠愛党が与党の座を獲得して以来、
警察権力の横暴は増す一方だ。
私はどうにか自力で、自分の感情をコントロールせねばならない。
取り調べ室に一人残され、
担当の刑事が来るのを待たされる。
簡単なテーブル、イスだけが用意された部屋、
なんと冷たい色彩だろう。
時計がないのと極度の緊張とで、
時間の歩みが異常に遅く感じられる。
爆発しそうな心臓をなだめながら、
私はどのようにして自分の素性をごまかす事ができるか、
混乱した頭で必死に考えていた。
今、私の能力を悟られるわけにはいかない。。。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
ノックも無しに、ふいに背後のドアが開いた。
そこに立っていたのは、刑事というより、
明らかに囚人の格好をした男だ。
私は突然の事に当惑した。
彼は悠然と私の視線を横切り、
向かいのイスに腰を下ろす。
男はじっと私の顔を眺め回した後、
おもむろに口を開いた。
「出たいか?」
馬鹿げた質問だ。答えは決まっている。
だが、彼の姿には、どこかしら、
彼の言葉のすべてに深い意味のあるような、
不思議な真剣さというものを感じさせるところがあった。
私は、慎重に、頷いた。
「ある女性を助けてあげてほしい。
その女性は、本来この街にいるべき人間ではない。
彼女があるべき所に戻るまで、彼女の事を助けると約束すれば、
君の事をここから出してあげよう」
瞬間、私の脳裏にはとんでもない面倒事を
しょいこんでしまうという、はっきりとした予感が現れた。
私は躊躇した。私がこの街に来たのは、
安定のためであって、決して冒険のためではない。
「だがそれは、君にとっても必要な事なのだ」
私はうつむいていた顔をぴくりと上げる。
薄々は感付いていたが、この男もどうやら能力者らしい。
「この部屋は特殊な造りになっていてね、テレパシーが
通らないようになっているんだ。それでわざわざ、
危険を冒してここまでやってきた。
君がここに来た事は、大きな運命の一端だから」
「...詳しい話を」
「その時間はない。やがて刑事がやってくるだろう。
君は今、選ばなければいけない。
イエスか、ノーか」
この混乱した頭に、そんな重大な選択をさせる事は
不安だった。
私は目を閉じ、直感に頼る事にした。
答えは、始めから出ていたようだ。
彼がにこりと微笑んだ。
「ありがとう。
では、くれぐれも、彼女の事をよろしく頼む。
この世界にとって必要な方だ」
思い出せるのはそこまでだ。
気がつくと私は、自分の部屋のベッドに横たわっていた。
心臓は自制を失い、激しく動悸している。
天井が、私たちの歩みに合わせ薄暗く緑に光る。
おそらく、振動刺激を感知して発光するプランクトンが
塗り込められているのだろう。
前を歩く警官の腰から強い磁力が発せられているのだろうか、
私の手首に掛けられた手錠は彼から1m以上離れる事ができない。
両側の壁は、今にも私たちに向かって崩れ落ちてきそうな、
異様な圧迫感を伴っている。
彼方の暗がりから、別の警官がこちらに向かって歩いてくる。
彼の周囲だけが歩みに合わせ緑に光るので、スポットライトが
彼の動きをフォローしているようにも見える。
私の前をゆく警官が先に敬礼をする。
おそらく彼の上司なのだろう。
しゃくれた顎と屈強そうな体の上司は、敬礼を返してから
私の顔を一瞥する。
彼らの威厳を保つための帽子の下から、
恐ろしく冷たい視線が私の体の芯を突き刺す。
こうした明かりや廊下の長さといったものは、
脱出の困難さ、自分の置かれた状況の過酷さを
強調するための演出なのだろうか。
私はまんまとそれに乗せられ、
絶望的な気分になってきていた。
早くコンプレクソンを飲みたい。
だがその願いは聞き入れられないだろう。
右派の誠愛党が与党の座を獲得して以来、
警察権力の横暴は増す一方だ。
私はどうにか自力で、自分の感情をコントロールせねばならない。
取り調べ室に一人残され、
担当の刑事が来るのを待たされる。
簡単なテーブル、イスだけが用意された部屋、
なんと冷たい色彩だろう。
時計がないのと極度の緊張とで、
時間の歩みが異常に遅く感じられる。
爆発しそうな心臓をなだめながら、
私はどのようにして自分の素性をごまかす事ができるか、
混乱した頭で必死に考えていた。
今、私の能力を悟られるわけにはいかない。。。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
ノックも無しに、ふいに背後のドアが開いた。
そこに立っていたのは、刑事というより、
明らかに囚人の格好をした男だ。
私は突然の事に当惑した。
彼は悠然と私の視線を横切り、
向かいのイスに腰を下ろす。
男はじっと私の顔を眺め回した後、
おもむろに口を開いた。
「出たいか?」
馬鹿げた質問だ。答えは決まっている。
だが、彼の姿には、どこかしら、
彼の言葉のすべてに深い意味のあるような、
不思議な真剣さというものを感じさせるところがあった。
私は、慎重に、頷いた。
「ある女性を助けてあげてほしい。
その女性は、本来この街にいるべき人間ではない。
彼女があるべき所に戻るまで、彼女の事を助けると約束すれば、
君の事をここから出してあげよう」
瞬間、私の脳裏にはとんでもない面倒事を
しょいこんでしまうという、はっきりとした予感が現れた。
私は躊躇した。私がこの街に来たのは、
安定のためであって、決して冒険のためではない。
「だがそれは、君にとっても必要な事なのだ」
私はうつむいていた顔をぴくりと上げる。
薄々は感付いていたが、この男もどうやら能力者らしい。
「この部屋は特殊な造りになっていてね、テレパシーが
通らないようになっているんだ。それでわざわざ、
危険を冒してここまでやってきた。
君がここに来た事は、大きな運命の一端だから」
「...詳しい話を」
「その時間はない。やがて刑事がやってくるだろう。
君は今、選ばなければいけない。
イエスか、ノーか」
この混乱した頭に、そんな重大な選択をさせる事は
不安だった。
私は目を閉じ、直感に頼る事にした。
答えは、始めから出ていたようだ。
彼がにこりと微笑んだ。
「ありがとう。
では、くれぐれも、彼女の事をよろしく頼む。
この世界にとって必要な方だ」
思い出せるのはそこまでだ。
気がつくと私は、自分の部屋のベッドに横たわっていた。
イタチノヘ 06
私は彼の隣におもむろに腰掛け、
カウンターの上に80年製のリング型トーカーを
無造作に置く。
彼は目を丸くし、トーカーと私の顔とを交互に見比べる。
「ごらんになりますか?」
彼は未だ信じられないといった様子で、
半ば口を開けたまま、
ゆっくりとトーカーに手を伸ばす。
私は声をひそめる。
「知ってのとおり、フィレモンの影響を受けない、
旧式のトーカーです。耐久性は劣りますが、自由は
保障しますよ」
トーカーは通信機能とID認証装置、電子マネーとを
備えたもので、クリーンの生活に必須のアイテムだ。
トーカーが無くては通過できないゲートも多く、
それはほとんどのクリーンの顔と、良心とを代弁している。
良心を代弁するというのはつまり、ひらたく言えば、
トーカーが個人に代わり、やって良い事といけない事の
判断を行うという事だ。
細かく言えば、トーカー自体がそういった判断を行うのでは
なく、フィレモンから発せられるある種の電波が、
トーカーで増幅され個人の意識に作用するのである。
役所は(役所の人間は自分達の所属組織を『セイフ』と呼ぶ)
市民の倫理意識をコントロールする事を切望してきた。
フィレモン・プロジェクトはその最終的な形だ。
シティ内の景気を一定の水準に保つため、
価格、賃金、需要供給などの値を常に管理する、
いわばシティの家計担当であるマザーコンピュータの
『コンシューマ2』に対し、
ファザーコンピュータであるフィレモンは
人間の無意識に直接作用し、
倫理意識を書き換える。
これによって、昨日まで平気で子供を殺せたような男が、
トーカーをつけただけで、拾った小銭のネコババにすら
戸惑うようになると言われている。
導入に際し人権団体は猛烈に反発したが、
いつものアレで、大多数の人間がぼんやりしている間に
法案は成立し、フィレモンはほとんどのクリーンの
意識の中に進入する事に成功した。
これによって、シティ内の犯罪発生率は格段に低下した
そうだ。
こうした発表のほとんどが役所の発表によるものなので、
そのまま鵜呑みにできるものではないが、
大きないざこざをシティで見かける事はほとんどなくなった
のは事実だ。
その反動なのかどうかは解らないが、常に一定水準の苛立ちを
プールのように溜めている人々が増えた気はする。
突発的な怒りが、本人を救う事もあるのかもしれない。
「お幾らですか?」
彼がついに口を開く。
「そうですね…まあ、20ってとこですかね」
「20!」
彼はその数字に衝撃を受け、
思わずトーカーをカウンターに置いた。
「ずいぶんするんですね」
「ご存知でしょうが、今これを手に入れられるのは、
ここしかありませんよ」
彼は、ふううと長いため息をつき、額に手を当て、
何かを計算し始める。その間もチラチラとトーカーに
視線を送っている。少し思案に疲れてきた様子で、
おもむろにグラスへと手を伸ばした。
その瞬間、私は彼の視界の中のグラスの位置を、
ほんの少しだけ、ずらす。
彼の手がガチャリとグラスを倒す。
氷とソーダ水が勢いよくカウンターの上を流れ、
トーカーを濡らす。
「えっ!?」
「ちょっとっ!!」
私は慌てた振りをして、濡れたトーカーをすばやく手に取る。
「今のトーカーとは違うんだから…」
私はマントの裾でトーカーを拭き始める。
「すっ…すいませんっ!あっ…これ、使いますか」
「結構です」
彼の差し出したハンカチに目もくれず、
私は拭いたトーカーの動作確認を行う振りをする。
「……」
「…どうですか?」
私は彼の目をちらとにらみ、ふうとため息をつく。
「駄目です」
彼の顔がみるみる青ざめていく。
私は心のなかでほくそ笑んでいる。
こんなことができるのも、フィレモンの束縛を受けていない
おかげなのだろうか。
私はもったいぶった調子で続ける。
「さて、どうしましょうかねぇ」
「……すいません」
「いやいや、まあわざとじゃないでしょうけど」
「もちろんです、どういうわけか、手が…」
「まあまあ、お気の毒ですけど、弁償して頂くか…」
「…!」
「いや、待てよ、いい考えが」
そう言って私は、鞄の中を探り、美しい細工を施した
ガラス瓶に入った水を取りだす。
「これは非常に貴重な水です。砂漠の向こうのオアシスで
採取された水に特別な配合の薬草を混ぜたもので、
疲労回復、万病の治癒に極めて迅速な効果があります」
彼の表情が、うしろめたさから訝しさへと変わりかける。
「これを何本か買って頂ければ、さっきの件は
水に流しましょう。どうです、すこし試してみますか?」
「そんなにすぐに効くものですか」
「まあ試してごらんなさい」
私はもったいぶってガラス瓶の栓を開け、
空になった彼のグラスに、1/10ほど聖水を注ぐ。
彼はにおいを確かめ、おそるおそる口に運ぶ。
私は、いっそう力を込めて、彼に念を送り込む。
「…なんだか、体が軽くなってきました」
「もう少し待ってみなさい」
私はさらに彼に念を送り続ける。
彼の気持ちが疑わしさを離れ、食いつき始めているのを
手触りとして感じる。
「すごいです!体中の痛みが…!」
私はおもわずにこりとする。
「はいはい、そこまで」
念を送るのに集中していて気づかなかったが、
背後に二人の男が立っていた。
明らかに、普通の人間ではない。
カウンターの上に80年製のリング型トーカーを
無造作に置く。
彼は目を丸くし、トーカーと私の顔とを交互に見比べる。
「ごらんになりますか?」
彼は未だ信じられないといった様子で、
半ば口を開けたまま、
ゆっくりとトーカーに手を伸ばす。
私は声をひそめる。
「知ってのとおり、フィレモンの影響を受けない、
旧式のトーカーです。耐久性は劣りますが、自由は
保障しますよ」
トーカーは通信機能とID認証装置、電子マネーとを
備えたもので、クリーンの生活に必須のアイテムだ。
トーカーが無くては通過できないゲートも多く、
それはほとんどのクリーンの顔と、良心とを代弁している。
良心を代弁するというのはつまり、ひらたく言えば、
トーカーが個人に代わり、やって良い事といけない事の
判断を行うという事だ。
細かく言えば、トーカー自体がそういった判断を行うのでは
なく、フィレモンから発せられるある種の電波が、
トーカーで増幅され個人の意識に作用するのである。
役所は(役所の人間は自分達の所属組織を『セイフ』と呼ぶ)
市民の倫理意識をコントロールする事を切望してきた。
フィレモン・プロジェクトはその最終的な形だ。
シティ内の景気を一定の水準に保つため、
価格、賃金、需要供給などの値を常に管理する、
いわばシティの家計担当であるマザーコンピュータの
『コンシューマ2』に対し、
ファザーコンピュータであるフィレモンは
人間の無意識に直接作用し、
倫理意識を書き換える。
これによって、昨日まで平気で子供を殺せたような男が、
トーカーをつけただけで、拾った小銭のネコババにすら
戸惑うようになると言われている。
導入に際し人権団体は猛烈に反発したが、
いつものアレで、大多数の人間がぼんやりしている間に
法案は成立し、フィレモンはほとんどのクリーンの
意識の中に進入する事に成功した。
これによって、シティ内の犯罪発生率は格段に低下した
そうだ。
こうした発表のほとんどが役所の発表によるものなので、
そのまま鵜呑みにできるものではないが、
大きないざこざをシティで見かける事はほとんどなくなった
のは事実だ。
その反動なのかどうかは解らないが、常に一定水準の苛立ちを
プールのように溜めている人々が増えた気はする。
突発的な怒りが、本人を救う事もあるのかもしれない。
「お幾らですか?」
彼がついに口を開く。
「そうですね…まあ、20ってとこですかね」
「20!」
彼はその数字に衝撃を受け、
思わずトーカーをカウンターに置いた。
「ずいぶんするんですね」
「ご存知でしょうが、今これを手に入れられるのは、
ここしかありませんよ」
彼は、ふううと長いため息をつき、額に手を当て、
何かを計算し始める。その間もチラチラとトーカーに
視線を送っている。少し思案に疲れてきた様子で、
おもむろにグラスへと手を伸ばした。
その瞬間、私は彼の視界の中のグラスの位置を、
ほんの少しだけ、ずらす。
彼の手がガチャリとグラスを倒す。
氷とソーダ水が勢いよくカウンターの上を流れ、
トーカーを濡らす。
「えっ!?」
「ちょっとっ!!」
私は慌てた振りをして、濡れたトーカーをすばやく手に取る。
「今のトーカーとは違うんだから…」
私はマントの裾でトーカーを拭き始める。
「すっ…すいませんっ!あっ…これ、使いますか」
「結構です」
彼の差し出したハンカチに目もくれず、
私は拭いたトーカーの動作確認を行う振りをする。
「……」
「…どうですか?」
私は彼の目をちらとにらみ、ふうとため息をつく。
「駄目です」
彼の顔がみるみる青ざめていく。
私は心のなかでほくそ笑んでいる。
こんなことができるのも、フィレモンの束縛を受けていない
おかげなのだろうか。
私はもったいぶった調子で続ける。
「さて、どうしましょうかねぇ」
「……すいません」
「いやいや、まあわざとじゃないでしょうけど」
「もちろんです、どういうわけか、手が…」
「まあまあ、お気の毒ですけど、弁償して頂くか…」
「…!」
「いや、待てよ、いい考えが」
そう言って私は、鞄の中を探り、美しい細工を施した
ガラス瓶に入った水を取りだす。
「これは非常に貴重な水です。砂漠の向こうのオアシスで
採取された水に特別な配合の薬草を混ぜたもので、
疲労回復、万病の治癒に極めて迅速な効果があります」
彼の表情が、うしろめたさから訝しさへと変わりかける。
「これを何本か買って頂ければ、さっきの件は
水に流しましょう。どうです、すこし試してみますか?」
「そんなにすぐに効くものですか」
「まあ試してごらんなさい」
私はもったいぶってガラス瓶の栓を開け、
空になった彼のグラスに、1/10ほど聖水を注ぐ。
彼はにおいを確かめ、おそるおそる口に運ぶ。
私は、いっそう力を込めて、彼に念を送り込む。
「…なんだか、体が軽くなってきました」
「もう少し待ってみなさい」
私はさらに彼に念を送り続ける。
彼の気持ちが疑わしさを離れ、食いつき始めているのを
手触りとして感じる。
「すごいです!体中の痛みが…!」
私はおもわずにこりとする。
「はいはい、そこまで」
念を送るのに集中していて気づかなかったが、
背後に二人の男が立っていた。
明らかに、普通の人間ではない。
イタチノヘ メモ 05
砂漠の空に雪が降る。
シティに格差がひどいのは、
貧乏人の苦しみが雨雲を呼ぶエネルギーの
主要因であるからだ。
役所は水源確保のために格差を維持する。
そして毎晩ドームの上には黒い雲が集まる。
風が冷たくなって
ぼさり、ぼさりと大粒の雪が降る。
西の砂をたくさん含んだ雪だ。
この時間に外をトンボで飛ぶやつはいない。
月明かりを背景に、
空を飛ぶ人影が二つ。
短い手足。
ブロッコの一室、
明かりのもれる窓のそばに近づいて、
中を覗く。
ゾディにアクセス中の男が一人。
20代前半、痩せ型、ヒゲ。
一人の子供がもう一人の子供に合図し、
二人で光の玉を作る。
それをそっと窓から部屋のなかに差し入れると、
二人は窓辺を離れ空の旅へと戻る。
暁が東の空を染め上げると、
ドームの屋根に積もった大量の雪は
日差しを受けて急速に溶け始める。
ドームの接地面にはこの水を集める為の
側溝が設けられており、濾過、殺菌されて
市内に供給される水の流れがちょろちょろと
音を立て始めてシティの朝は始まる。
砂漠の向こうでは急速に加熱された砂の熱で
雪原はあっという間に空間を埋め尽くす水蒸気となり
巨大な陽炎がゆらゆら、ぐらぐらと
殺風景な荒野を捻じ曲げる。
隣の部屋では時間を無くした男の
一つ目のベルが鳴る。
先日、ようやく障害認定されるようになった
ばかりの流行り病だ。
彼は1日中ジグソーパズルをして過ごしている。
以前はたいがいのロストがそうであるように
優秀な企業戦士だったそうだ。
ある時期、出世の足がかりとなる大きな
プロジェクトを任され、大きな責任と期待の中
分刻みのスケジュールで働いていたのだが、
ある日、ふと移動レーンの乗り過ごしが多いことに
気付いた。
目的の駅で降りられず、うっかりしていると
二つ三つの駅どころではなくて、
レーンをぐるりと一周してしまっているのだ。
ちゃんとアナウンスを聞いていれば
降りられるはずなのだが、
通いなれた通勤路というのはマンネリ化して
しまっているために、意識を保つ事が困難なのだ。
仕方なく通勤路を遠回りなものに変えてみた。
だが問題は単純ではなかった。
そのうち会話が難しくなってきた。
ほんの一時考え込んだつもりが、
3時間の沈黙となり、
少し熱の入った話しをすれば
必ず相手が疲労の果てに彼の口を遮るように
なってしまったのだ。
そんなふうにしてクビになり、
今は毎日ジグソーパズルに没頭している隣人。
これぐらいゆるくても
メモを書き重ねていったほうが
作品は作りやすいのではないかと
思ったのでそうしてみます。
ちぃっと読みづらい文章になりがちですが
ご勘弁。
たくさん矛盾出るかもしれんがご勘弁 too
伊豆に引っ越す予定です。
シティに格差がひどいのは、
貧乏人の苦しみが雨雲を呼ぶエネルギーの
主要因であるからだ。
役所は水源確保のために格差を維持する。
そして毎晩ドームの上には黒い雲が集まる。
風が冷たくなって
ぼさり、ぼさりと大粒の雪が降る。
西の砂をたくさん含んだ雪だ。
この時間に外をトンボで飛ぶやつはいない。
月明かりを背景に、
空を飛ぶ人影が二つ。
短い手足。
ブロッコの一室、
明かりのもれる窓のそばに近づいて、
中を覗く。
ゾディにアクセス中の男が一人。
20代前半、痩せ型、ヒゲ。
一人の子供がもう一人の子供に合図し、
二人で光の玉を作る。
それをそっと窓から部屋のなかに差し入れると、
二人は窓辺を離れ空の旅へと戻る。
暁が東の空を染め上げると、
ドームの屋根に積もった大量の雪は
日差しを受けて急速に溶け始める。
ドームの接地面にはこの水を集める為の
側溝が設けられており、濾過、殺菌されて
市内に供給される水の流れがちょろちょろと
音を立て始めてシティの朝は始まる。
砂漠の向こうでは急速に加熱された砂の熱で
雪原はあっという間に空間を埋め尽くす水蒸気となり
巨大な陽炎がゆらゆら、ぐらぐらと
殺風景な荒野を捻じ曲げる。
隣の部屋では時間を無くした男の
一つ目のベルが鳴る。
先日、ようやく障害認定されるようになった
ばかりの流行り病だ。
彼は1日中ジグソーパズルをして過ごしている。
以前はたいがいのロストがそうであるように
優秀な企業戦士だったそうだ。
ある時期、出世の足がかりとなる大きな
プロジェクトを任され、大きな責任と期待の中
分刻みのスケジュールで働いていたのだが、
ある日、ふと移動レーンの乗り過ごしが多いことに
気付いた。
目的の駅で降りられず、うっかりしていると
二つ三つの駅どころではなくて、
レーンをぐるりと一周してしまっているのだ。
ちゃんとアナウンスを聞いていれば
降りられるはずなのだが、
通いなれた通勤路というのはマンネリ化して
しまっているために、意識を保つ事が困難なのだ。
仕方なく通勤路を遠回りなものに変えてみた。
だが問題は単純ではなかった。
そのうち会話が難しくなってきた。
ほんの一時考え込んだつもりが、
3時間の沈黙となり、
少し熱の入った話しをすれば
必ず相手が疲労の果てに彼の口を遮るように
なってしまったのだ。
そんなふうにしてクビになり、
今は毎日ジグソーパズルに没頭している隣人。
これぐらいゆるくても
メモを書き重ねていったほうが
作品は作りやすいのではないかと
思ったのでそうしてみます。
ちぃっと読みづらい文章になりがちですが
ご勘弁。
たくさん矛盾出るかもしれんがご勘弁 too
伊豆に引っ越す予定です。
近況報告
毎度告知が遅いのですが、
5月4日、5日、6日に仙川の森のテラスで行われる
ダンスのイベントに、ギターで参加する事になりました。
小笠原で出会った越前谷さん率いる
三十日鳥の第二回公演。
バイオリン弾きの淳也と一緒にやります。
場所も踊りも生音もいい具合に混ざってきておりますので、
お時間ある方はゼヒ。
4日はもうほとんど埋まってしまったそうですが。。。
(席数増やせるかも、とのこと)
予約状況などはミソヒドリ公式ブログをご覧下さい。
都合の着く方はなるべく5日でお願いします。
それから、5月17日に新井薬師のスペシャルカラーズで、
オービタルリンクのRAYさんのダンスパフォーマンスに
映像で参加します。
名古屋の電子音ニスト、小野さんと一緒です。
詳細など見えてきたら、
こちらもinformationで告知させてもらいます。
先日ひさかたぶりに映画を上映させて頂いて、
ふたたび直前編集の嵐が吹き荒れ
へろへろになって辿り着いたのですが、
やっぱり人の反応に直に触れられるのはありがたいね。
自分が何をしたいのかわかってくる。
明日は代々木公園にギター持って行って
音の打ち合わせ。
アースデイもやってるから楽しそう。
快晴だといいな。
ライブは久しぶりだけど、
やっぱり楽しみ。
ギターと隣人を大切にしながら
本番まで精進したいです。
映画の方は
ぶわーっと広がった世界の設定を
どうやってストーリーに落としていくのか
そのへんを試行錯誤しつつ
とりあえず流してみています。
とりあえず今回は、
「できるかできないか」
という思考を捨てて
想像力が遊ぶままに
面白いストーリーを作ってみたい。
という事でムチャクチャ書いてますが
気になった人いたら手伝って下さい。
〆切り無し、目的無しで
ひたすら楽しんでみようという方、
ぜひぜひ一緒に楽しみましょう。
5月4日、5日、6日に仙川の森のテラスで行われる
ダンスのイベントに、ギターで参加する事になりました。
小笠原で出会った越前谷さん率いる
三十日鳥の第二回公演。
バイオリン弾きの淳也と一緒にやります。
場所も踊りも生音もいい具合に混ざってきておりますので、
お時間ある方はゼヒ。
4日はもうほとんど埋まってしまったそうですが。。。
(席数増やせるかも、とのこと)
予約状況などはミソヒドリ公式ブログをご覧下さい。
都合の着く方はなるべく5日でお願いします。
それから、5月17日に新井薬師のスペシャルカラーズで、
オービタルリンクのRAYさんのダンスパフォーマンスに
映像で参加します。
名古屋の電子音ニスト、小野さんと一緒です。
詳細など見えてきたら、
こちらもinformationで告知させてもらいます。
先日ひさかたぶりに映画を上映させて頂いて、
ふたたび直前編集の嵐が吹き荒れ
へろへろになって辿り着いたのですが、
やっぱり人の反応に直に触れられるのはありがたいね。
自分が何をしたいのかわかってくる。
明日は代々木公園にギター持って行って
音の打ち合わせ。
アースデイもやってるから楽しそう。
快晴だといいな。
ライブは久しぶりだけど、
やっぱり楽しみ。
ギターと隣人を大切にしながら
本番まで精進したいです。
映画の方は
ぶわーっと広がった世界の設定を
どうやってストーリーに落としていくのか
そのへんを試行錯誤しつつ
とりあえず流してみています。
とりあえず今回は、
「できるかできないか」
という思考を捨てて
想像力が遊ぶままに
面白いストーリーを作ってみたい。
という事でムチャクチャ書いてますが
気になった人いたら手伝って下さい。
〆切り無し、目的無しで
ひたすら楽しんでみようという方、
ぜひぜひ一緒に楽しみましょう。
イタチノヘ 04
ネグレクト(飼育義務放棄による動物虐待)の容疑で
4D-165番ブロッコの521号室の家宅捜索が行われる事となった。
当局からは警官が二人、
動物保護シェルターからは女性スタッフが一人、
ロック解除のため管理人が一人、
521号室の前に集結した。
警官らが左腕のリストバンドに
指を触れると、5秒ほどかけてじっくりと消えてゆく。
女性スタッフはそれをまじまじと見詰めた。
完全に透明化する直前、二人はふわりと揺らいだ。
わずかに宙に浮いたのだろう。
やがて共有キーでロックが解除されると、
開いたドアの隙間からすさまじい臭気が漂ってきた。
日々増してゆくこの異臭に耐えかねた
隣人の通報で今回の事態となったわけだ。
開いたドアから、透明で、足音もない警官が二人、
室内へ入っていく。
予想に反して、発見された動物はごく少数だった。
猫が二匹だけ。
フードタイマーのストックも充分にあり、
トイレは糞にまみれてはいたものの
消臭器の効果でそれなりに中和されていた。
厚いカーテンで光を遮った薄暗いリビングに、
鼻をつく鋭い臭いが満ちていた。
部屋の中央には、起動したままのゾディ。
うす青く発光している。
その光に照らされ、容疑者がソファに座っていた。
警官の呼びかけにも、まったく反応を示さない。
年上の方の警官が音も無く容疑者に近づく。
臭いの原因はどうもこの男らしい。
容疑者の後頭部にはゾディのコントローラーが装着され、
目はあきらかにゾディの世界を見つめている。
もう一人の警官に明かりをつけるよう指示すると、
年上の警官はゾディの電源を切る。
明かりの中で見ると、容疑者が糞尿を座ったまま
垂れ流していることが判明した。
男の目には既にゾディのバーチャル空間は見えていない
はずだったが、男の目はあいかわらず
眼前のものを認識してはいない。
しかし表情は恐ろしいほどの衰弱ぶりを示している。
警官が男の肩に触れると、
男はぱたりとソファの上に倒れた。
やがてすうすうと寝息を立て始める。
おそらく数日間に渡ってずっと
ゾディの中に篭っていたのだろう。
どういう方法を使ってかは判らないが。
サイドテーブルには、大量の錠剤が載っていた。
「ジャンキーめ」
年上の警官が吐き捨てるように言った。
年下の警官は、ある都市伝説の事を考えていた。
ゾディに住む、悪魔の噂。
4D-165番ブロッコの521号室の家宅捜索が行われる事となった。
当局からは警官が二人、
動物保護シェルターからは女性スタッフが一人、
ロック解除のため管理人が一人、
521号室の前に集結した。
警官らが左腕のリストバンドに
指を触れると、5秒ほどかけてじっくりと消えてゆく。
女性スタッフはそれをまじまじと見詰めた。
完全に透明化する直前、二人はふわりと揺らいだ。
わずかに宙に浮いたのだろう。
やがて共有キーでロックが解除されると、
開いたドアの隙間からすさまじい臭気が漂ってきた。
日々増してゆくこの異臭に耐えかねた
隣人の通報で今回の事態となったわけだ。
開いたドアから、透明で、足音もない警官が二人、
室内へ入っていく。
予想に反して、発見された動物はごく少数だった。
猫が二匹だけ。
フードタイマーのストックも充分にあり、
トイレは糞にまみれてはいたものの
消臭器の効果でそれなりに中和されていた。
厚いカーテンで光を遮った薄暗いリビングに、
鼻をつく鋭い臭いが満ちていた。
部屋の中央には、起動したままのゾディ。
うす青く発光している。
その光に照らされ、容疑者がソファに座っていた。
警官の呼びかけにも、まったく反応を示さない。
年上の方の警官が音も無く容疑者に近づく。
臭いの原因はどうもこの男らしい。
容疑者の後頭部にはゾディのコントローラーが装着され、
目はあきらかにゾディの世界を見つめている。
もう一人の警官に明かりをつけるよう指示すると、
年上の警官はゾディの電源を切る。
明かりの中で見ると、容疑者が糞尿を座ったまま
垂れ流していることが判明した。
男の目には既にゾディのバーチャル空間は見えていない
はずだったが、男の目はあいかわらず
眼前のものを認識してはいない。
しかし表情は恐ろしいほどの衰弱ぶりを示している。
警官が男の肩に触れると、
男はぱたりとソファの上に倒れた。
やがてすうすうと寝息を立て始める。
おそらく数日間に渡ってずっと
ゾディの中に篭っていたのだろう。
どういう方法を使ってかは判らないが。
サイドテーブルには、大量の錠剤が載っていた。
「ジャンキーめ」
年上の警官が吐き捨てるように言った。
年下の警官は、ある都市伝説の事を考えていた。
ゾディに住む、悪魔の噂。
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